旅程未定

瀬戸内海を飲み干したい

202309欧州旅行記|8 タトラの街

true3014.hatenablog.com

 

 

 

5日目 9月7日(木曜日)

 

プラハ初日の貴重なディナーの機会をふいにして手にした睡眠は大変上質だった。しこたま寝て目覚めると朝6時。普段ならもう少し寝ていたいところだが、これ以上プラハの時間を削るわけにはいかない。着替えを済ませたらカメラとガイドブックを持って街へ出よう。

↓頼もしいガイドブック

shosen.tokyo

 

 

空は気持ちよく晴れて空気が澄んでいる。日陰はまだ少し寒いくらいだ。

宿の目の前の電停で22系統のトラムを掴まえて、本日最初の目的地へと向かう。長年行ってみたいと思っていた場所で、今回のプラハ訪問の動機としてはかなりの割合を占めている。

ブルタバ川を西へ渡ってプラハ城下の街並みに潜り込んでゆく。

右へ左へ揺さぶられてMalostranské náměstí電停に到着した。ここでトラムを降りる。náměstíは広場の意で、スウェーデン語ならplan、ドイツ語ならplatz。ヨーロッパを渡り歩くと電停名に含まれる単語の意味をなんとなく推測できるようになってくる。

お目当ての地点はこの電停の少し先にある。軌道に沿って歩くとそれはすぐに見えた。

広場の先で複線の軌道は、建物の隙間を通り抜けるために距離を縮める。しかし両者は交わらず、トンネルを抜けて再び何事も無かったかのように複線に戻る。これはガントレット(単複線)といい、複線の用地を確保できない場所において、分岐器切り替えの手間を省きながら幅を狭める手段として、主にヨーロッパの路面電車で用いられている。

とりわけプラハガントレットは、「なんでこんなところに線路を通したんだ?」と思わざるを得ない、衝撃的なビジュアルを放っている。どういう経緯でこの形に落ち着いたのか非常に気になる。

反対側に回り込み、一眼を構える。

一発目に来たのがこれ。なんだか知ってる色と違う。

後からさらに2両やってきた。系統は「L」と表示されている。

どうやらこの車両、教習車らしい。ここは教習コースだったわけだ。

このガントレットは見通しがすこぶる悪いため、信号によって交互通行の秩序が保たれている。信号を見落とせば対向車とごっつんこ、という大変刺激的な教材である。

たのしい。一生見ていたい。

限界まで畳まれていたパンタグラフが息を吹き返したように伸びていくのも見どころ。

 

 

 

ガントレットを行き交うタトラカーに釘付けで朝食のことを忘れていた。Malostranské náměstíのほうから何やら良い匂いが漂ってくるのでそちらに吸い込まれてみる。広場にはいろいろな料理の屋台が出ていて、ちょっとしたお祭りみたいな雰囲気だ。

いい匂いの元をたどって行くとブリトーのようなものを売っている店に着いた。甘いのもしょっぱいのもあって迷ったがWITH MEATを選択。1つ130Kčで日本円にして800円ほど。

4つに切り分けフライドオニオンを載せて供されたそれを、電停のベンチに腰掛けながら頂く。ぎっしりと肉が詰まっていて噛むほどに肉汁が溢れて美味しい。S字クランクで連接トラムがくねる様は見ていて飽きない。

 

 

 

朝食を済ませて再びトラムに乗り込む。23系統の東側の終点Zvonařkaへと向かう。この路線は公式HPでNostalgic line No.23と紹介されていて、クラシカルなタトラT3型が運用に入り30分間隔で運行されている。プラハ城や旧市街といった主要な観光地と宿泊地I.P.Pavlovaを結ぶのみならず、絶対に見たかったガントレットまで通るというかなり都合のいい路線である。

 

鉄オタ向け見どころはZvonařkaにもある。

Zvonařkaにやってきた電車はまず反対方向の線路を左に跨ぎ、スプリングポイントを割って路地に入ってゆく。ここで降車扱いを終えると、運転士は車両の後方に移動する。

スイッチ箱 ボタンの配置も気になるところ

タトラネクタイピン着けてる。かわいい~

片運転台のトラムは終端駅ではループ線を用いて向きを変えるのが通常である。Zvonařkaでは切り返しによって向きを変える珍しい光景を見ることが出来る。

後端のスイッチボックスを解錠、周囲を確認しながらそろりそろりと後退して通りに出る。

所定の位置まで下がり終えると再び開扉し発車時刻を待つ。運転士は休憩しにどこかへ行ってしまった。私の他に乗客は見当たらない。

 

 

 

 

 

 

図解 青線が後退

こんな刺激的な環境で育った子は、将来どんなトラムでも興奮出来ない大人になってしまいそう。非常に危険な香りの漂う場所だ。

 

 

 

23系統で来た道を戻り、今度は反対側の終着駅へ。ガントレットを車内から眺めてにんまりしていると、電車はぐいぐいと勾配を登り始めた。ヘアピンカーブでプラハ城のある台地へと高度を稼ぐ。建物が隙間なく詰まった旧市街とは雰囲気が変わって、車窓の緑の比率が上がった。

 

 

プラハ城が近づいてきた頃、車内に乗り込んできた男がバッジを見せながら何やら訴えかけてくる。少し遅れてそのバッジがプラハの交通局のマークであることに気付いた。私服職員による抜き打ちの検札だった。突然来ると有効なチケットを持っていてもドキっとするものである。有名観光地の近くでは多少は身構えておいた方が良いなと思った。

 

 

観光客を降ろして身軽になったタトラは、少し西に進んだところで大通りを左に逸れてループ線に入った。23系統の西側の終点であるKrálovka電停に着いた。地元の交通公園のような趣きがあるこの電停が23系統で働くクラシカルなタトラカーのたまり場になっているようだ。

 

 

近くの別のループ線にて気になる車両を発見 ビール電車?

カメラを構えつつプラハ城へと向かう。ここらで普通の観光もしておこうかななんて考えていた。

 

しかし、城へと入ってゆく道に差し掛かったところで足が止まってしまった。気が乗らない。ブランデンブルク門での一件もあり、一大観光地にトラウマのようなものが植え付けられてしまった。踵を返して中央駅に行先変更。結局鉄オタは鉄道から逃げられないのだ。

 

 

 

つづく